老人ホームで働くフィリピン人女性

クスッ、ほっこり、外国人あるある話

老人ホームで働くフィリピン人女性

老人ホームの仕事で出会ったフィリピン人女性

現在私は主婦をしながら老人ホームで介護士として働いている34歳です。1年前、その老人ホームにフィリピン国籍の女性がパートとして入ってきました。彼女は私と同い年の34歳で、日本人の男性と結婚して日本に移住したそうです。日本語がなかなか難しいらしく、会話はジェスチャーや片言の日本語、ローマ字での筆談などでした。でも、彼女はとても明るい性格で利用者さんからも人気がありました。

彼女はこれまで老人ホームで働いた経験がなく、資格も持っていなかったので、通常よりも研修期間が長く設けられていて、私がその研修の指導役でした。研修が2カ月ほど経ち、日本語も少しづつ覚えて、利用者さんに「ダイジョウブ?」「イタイ?」「エライ?」などと質問できるようになっていました。

その老人ホームでは「家族会」といって、老人ホームに入っている利用者さんの状態などをご家族に説明する会が1年に1回あります。ちょうどこの頃、その家族会が1週間後に迫っていました。そこで、彼女にその家族会でご家族への説明をやってもらうことにしました。彼女も快く引き受けてくれたので、1週間の中で彼女と念入りに打ち合わせをし、計画書を作り、何度も練習をして、ようやく家族会当日を迎えました。

家族会での説明で…

まず病気や身体の大切な情報は私がご家族に伝え、次に食事や入浴の様子を彼女からご家族に伝えてもらいました。すると彼女は、「ご飯いっぱい食べるよ」「年寄りなのにいっぱい食べるからビックリ」などとご家族に対し失礼になりかねない言葉で説明し始めたのです!私は驚き、あわててストップをかけました。

「『食事は完食されています』だよ!」彼女に小声でそう説明すると、彼女は「その日本語は難しいよ。夫に聞いたら『完食は、いっぱい食べるという意味だ』と言われたのに、〝いっぱい食べる”はダメなの?」と逆に言われてしまったのです。言われてみればたしかにその通りで、間違ったことを言っているわけではないので、ダメというわけではないのですが、ご家族に説明するには言葉が雑で聞こえが悪いと思いました。ご家族の方をうかがうと、こちらの事情を理解してくれたようで「大丈夫ですよ」と言われたので、彼女に続けて入浴の様子を話し始めました。

すると「お風呂、気持ちいいね」「私、お風呂、好き」と、突然彼女はなぜか彼女自身のことを話し出し、しかも一人で「お風呂、スキー」と笑いだしたのです。私は唖然としました。周りにいた誰もが一瞬氷付き、ご家族が気分を悪くしたのではないかとハラハラしました。彼女はその空気を感じたのか「なに?なにがダメだった?」と言ってきたのです。私もさすがに笑いで返すことは出来ず「あとで話しましょう」と言いました。

すると彼女はいきなり泣き出し「ごめんね」とまず私に謝り、続いてご家族の手を握って「ごめんね、ごめんね」と謝りだしたのです。ご家族は「気にしないで下さい」と言って下さり、とりあえずは家族会を終了することができました。そして家族会を終えたあと、彼女と私は別室で反省会をしました。

難しい日本語を簡単な日本語に変換していた

彼女は「何がダメなのか、何も分からない」とずっと言っていました。私は、説明の内容や言い方は全て練習してから家族会に臨んだのに、なぜ練習の時と言い方が違うのかと聞きました。すると、食事の様子を話した時と同様に、彼女の旦那さんが、彼女が言いやすいように簡単な単語を使って教えてくれたということだったのです。

「お風呂をとても好まれていて毎日の入浴を希望されています」本番ではこう言う予定で練習していたのですが、これを簡単な日本語に訳すと「お風呂気持ちいいね」になってしまったそうです。それを聞いたときは怒るというより笑えてしまい、それ以上は何も言えませんでした。彼女なりに勉強した結果がこうなってしまいましたが、彼女の熱意やヤル気を感じることができました。

明るくムードメーカーな彼女は人気者

そんな彼女は日本のある物が大好きでいつも大量に買い、休憩時間に食べています。それは「トッポ」です。細い筒状の棒の中にチョコレートが入っているお菓子です。フィリピンでは手に入れることが出来ないらしく、日本に来てトッポがどこのお店にも売っていることに驚いたそうです。売り切れる前にとトッポを全て買い占めたそうですが次の日にまたそのお店へ行くと大量のトッポが並んでいてビックリしたと言っていました。お茶目な彼女はみんなの人気者です。