「シャドウ、シャドウ」百貨店の売り場で彼が行きたかったところはどこ?

クスッ、ほっこり、外国人あるある話

「シャドウ、シャドウ」百貨店の売り場で彼が行きたかったところはどこ?

プチ旅行の上野でー

関西在住の40代の主婦です。3年ほど前のこと、主人か単身赴任で関東の方にいたのでちょくちょく遊びに行っては一人でウロウロと観光して歩いていました。ある日上野を観光してからの帰り、なんかおいしいものでも買って帰るかと百貨店のフロアガイドを見ていた時のこと、「すいません」と背後から声をかけられました。ふりむくと30代くらいの男性が一人にこやかな表情でこちらを見ています。キチンとした身なり。

 男性は壁のフロアガイドを指さして何かを言いました。「あ、外国人の人か」とその時ようやく理解。というのも見た感じ東洋人だったからで、おそらく中国、韓国、台湾系のどこかだったと思えます。フロアガイドには各階の案内と売っている商品が表示してありますから、どこかを教えてほしいのだなとわかりました。なので「はい?売り場?」と聞くと、にこやかな表情でうなずきます。

 どうやら彼は「すいません」以外まったく日本語が話せないようです。だいじょうぶかな…よりによって観光客の私に…と不安がよぎった私に向かって彼はしっかりと「○○○○」と意味不明の言葉を投げかけました。「は?」と問い直した私にもう一度「○○○○」。まったくわかりません。日本語か?と思いましたが、彼は自信ありげに再び繰り返します。

応酬は続く! 

「シャ○○」。頭の部分だけ聞き取れました。

「シャ??もう一回」。

再度「シャドウ」。「は?シャドウ?」と言った私に彼は嬉しそうに「シャドウシャドウ」と連発。

私はますます困惑。“影”ってなんだ?!ポカンとしたまま固まってしまった私の表情を見て、それまでにこやかだった彼の表情にも悲しみが混じり始めました。わかってあげたい、教えてあげたいのはやまやまなのだけど、もう少し日本語でちゃんと教えてよ。

 これは一人ではとうてい対処するのは無理とまわりを見回してみても、不幸にも誰もいません。何か“影”に関するイベントでもやっているのかもしれないと思い、店の人に助けを求めようと決意しました。さてどうしようか、彼にここで待つように言うには何て言えばいいかと思案しながら、それでも口の奥でシャドウシャドウとつぶやいていました。

 発想の転換

と、その時突然ひらめいたのです。何回も繰り返したのがよかったのでしょう。私は彼に向かって大きな声ではっきりと「シセイドウ!?」と尋ねました。満面の笑みで「シャドウシャドウ」とうなずく彼。あのシセイドウだよな、そうだよなと夢中でパフを顔にパタパタとはたいてリアクションをとる私の様子を、彼はケラケラと笑いながら「シャドウシャドウ」と何度もうなずきます。

 そうです「シャドウ」の正体は「資生堂」だったのです。まさかこんな男が資生堂に用があるなんて考えもつきません。たぶん家族か彼女から頼まれたのでしょう。曖昧な「シャドウ」という言葉だけを頼りに。

 化粧品売り場は今いるフロアの奥のようです。とりあえずほっとした私は「化粧品売り場ここ、この階」と教えましたが、日本語がまったくわからない彼はポカンとしているだけ。とりあえず英語ならわかるだろうと、「えーと、thisthis floor!」と床を指しました。「おー、this floor!」と喜んであたりを見回す彼。通じたようです。彼は再び満面の笑みで「ありがとう」と言って資生堂に向かい去っていきました。

 シャドウでも通じる、、世界のSHISEIDOU

後でこの一件を聞かせた知り合いは一様に「よくわかったもんだ」と驚いてくれます。確かによくぞ「シャドウ」から資生堂がひらめいたものです。あの男性はラッキーだったと思いますよ、私に出会って。でも、せめてメモでも持ってきてくれたらなあ。