アラブの石油王の息子

クスッ、ほっこり、外国人あるある話

アラブの石油王の息子


アラブからの留学生

学生時代、学校の留学生で同級生にアラブの石油王の息子(本当の息子なのか親戚なのか、あまり日本語がうまくはなかったので実はよくわかりません)がいました。1年間の留学のようでした。同級生と言っても彼のほうが3歳くらい年上だったと思います。彼はすごく気さくでお人好しでした。彼とのエピソードをいくつか紹介します。

学生寮にて

彼は来日後、「日本の普通の生活がしたい」ということで学生寮に住むことにしました。そこは4畳半一間の狭い部屋で、共同スペースはみんなで掃除をしなければなりません。彼は今までの人生で「掃除」というものをしたことが無いらしく、最初はどうやっていいのかオロオロしていました。

ですが、掃除の仕方を覚えるととても楽しそうに、当番以外の日も率先して掃除をすることがありました。周りの友達は「今はいい顔をして掃除しているけど、そのうち飽きて、『こんなことは下僕がすることだ』とか言ってやらなくなるんじゃない?」と話していたのですが、結局1年間、彼はずっと文句も言うことなく「綺麗になるって気持ちいいね」と言いながら掃除をしていました。

お父さんがやってきた

ある日、彼のお父さんが本国からやってきました。学生寮を見るなり「お前はここ(学生寮全体)を一人で使って、友達を住まわせてあげているのか?」と聞いてきたようです。彼が「この中の一部屋だけを借りて住んでいる。掃除も自分でしている。」と答えました。

それを聞いたお父さんは非常にビックリして「こんなところに住んではいかん。隣の一軒家(結構な大豪邸)を借りるからそこに住みなさい。お手伝いさんも雇いなさい」と強く説得してきたのですが、彼は「たった一年だからみんなと一緒に日本人らしい暮らしを楽しみたい」と言って、結局寮に残ることになりました。

お寿司屋さんにて

ある日、彼は「お寿司が食べてみたい。それもお店のカウンターで食べたい。」と言ってきました。私たちは「僕たちにはお金が無いので、お寿司屋さんには連れて行けないよ。一人最低でも2,000円はかかるんだよ」と説明したところ、すごくビックリして「え?そんなお金で良かったら僕がみんなの分を払うよ。みんなで行こう!」と言って、普段遊んでいる5人を引き連れてお寿司屋さんに行きました。

彼は普段は私たちと同じような質素な生活をしていたので、本当に彼がお金を持っているのかすごく不安でした。ですから、私たちは皆、ひそかにお金を持って行きました。

お店に入ると彼はすごく感激し、次から次へとお寿司を頼んでいきます。私たちは遠慮し、あまり食べないでいると「みんなお腹いっぱい食べて。」とドンドン私たちの分も頼んでいきます。私たちはお腹いっぱいになりました。

いざお勘定になると、やはり50,000円くらいになってしまいました。アチャー、どうしよう・・・と思っていると、彼は普通にカードを取り出し、自然な流れでお勘定を済ませました。私たちが「お金、本当に大丈夫なの?」と心配そうに聞くと、彼は「こんなもので良かったらまたみんなで来ましょう」と微笑んでいました。

学園祭にて

学園祭の時、彼は彼の国のカレーを作って出店したいと言ってきました。材料費は全部彼が負担すると言うのです。それであれば、と私たちも彼を手伝うことにしました。準備の途中、材料のいくつかは日本で買えないことが分かり困っていると、なんと彼の国から山のような荷物が届きました。材料を彼の家から送ってもらったそうです。

さて、学園祭当日、彼に指示を受けながら準備をしてカレーを作りました。値段は一応決めていたのですが、実際売り始めると、彼はお客さんからお金を受け取ろうとしません。「ちゃんと料金もらわなきゃダメだよ」と言うと「みんなが僕のカレーを楽しんでくれている。僕はここでビジネスをしたいんじゃない。僕の国の事を楽しみながら知ってくれればそれで十分です。」と言ってタダでカレーを配り始めました。

「タダでカレーが食べられる」という噂がたちまち広がり、店の前には長蛇の列ができ、あっという間にカレーはなくなりました。彼はすごくうれしそうに食べている人たちを見ていました。

彼はすべてのスケールが大きく、帝王学ってこんな感じなのかな、と私自身とても勉強になりました。