ほぼ毎日飲みに来た、サウジアラビア人

クスッ、ほっこり、外国人あるある話

ほぼ毎日飲みに来た、サウジアラビア人

忘れられないお客様

小生、38歳の男性です。今から20年近く前、大学生時代にバイトしていたチェーン展開の居酒屋に、ほぼ毎日のように入り浸っていた外国人客がいました。

サウジアラビア出身の通称「サーレ」、年齢は当時で28歳(自称)、大学生(これも自称)という、極めて店内で異彩を放つ客でした。カウンター席の端っこが彼の指定席で、飲むものは決まって「モスコミュール」。食べ物は肉料理が多かったですね。

最初は「うわぁ、得体の知れない外人が来た!」という印象で、我々バイト一同も一線を画していました。誰と話すわけでもなく、黙々とモスコミュールを飲み続け、当時、携帯電話はありましたが、現代のスマホほど暇つぶしができるアイテムではありませんでした。

携帯を見る素振りもなく、ただ前を見て、時に周りの様子を確認するように見回して、適度に時間が経ったら帰る・・・というルーティーンでした。これがほぼ毎日。早いと8時くらいから飲んで、調子がいいと12時近くまで店にいました。

お客様、いつしか常連さんに

しかし、あまりにも毎日来ると、少しずつ話すようになってくるものですね。最初は店長が一言二言。そして、私達バイトも一言二言。カウンター越しに調理長も少しずつ喋るようになり、気がついた時にはいつもいる常連客として、完全に店に溶け込み我々店員と話すようになってきました。

ごくたまに、同じ大学の同期の留学生(おそらくサウジ出身と思われる人)と飲んでいる様子が見受けられましたが、基本的には一人。ニヒルにモスコのグラスを傾ける姿は、時に渋く、カッコよくも見えました。

そんなサーレ、ある時から急にモスコからジントニックに酒が変わり、しかも、ずっと同じ酒を飲み続けていたサーレが突然、日本酒を飲み始めたのです。「どうしたの?急に日本酒なんて飲みだして」との問いかけにも、「イヤ、ベツニナニモナイヨ」と、落ち着いていつも通り飲みだす彼。

日本酒に負けをみとめない?!

あまりに日本に慣れすぎたから、とうとう日本の酒の方が美味しく感じ始めたのかな?とも思いました。このジントニックからの日本酒というルーティーンが数週間続きましたが、どうやら自分には合わなかったようで、ある日、カウンターにいたはずのサーレが突然、いなくなりました。

次の瞬間には席に戻っていたのですが、異変が。サーレはいつも眼鏡をかけていたのですが、かけていたはずの眼鏡がない、そして、上着の左袖には余波と思われる小さなゲ○の雫が・・・。

「・・・こいつ、飲みすぎてトイレに吐きに行ったな・・・」と悟った私は、急いで男子トイレへ。案の定、トイレにはゲ○の沼ができており、しかもよりによって小便器の方に。
慌てて男子トイレの前に「清掃中」の看板を立てて掃除をはじめた私。

掃除を終えて彼の眼鏡を手に取り、席に座るサーレに眼鏡を渡すし際に、「飲みすぎて気持ち悪くなっちゃった?」と聞いたら、「チガウヨ!コレ(ジントニック)ト、コノ酒(日本酒)ガ合ワナインダヨ!」とのたまいやがりました。

「いや、違うから。単純に飲みすぎだよ。水飲みな」とコップ1杯のお冷を私、ゆっくり飲みむ出すサーレ。

来日理由も、帰国理由も驚きの事由

こんな飲んだくれの外人ですが、実は凄いお方だったようで。我々バイトの中でも特に仲良くなった先輩が、「コンド、ウチニ遊ビニオイデヨ」とお誘いを受け、本当に遊びに行った時の話を聞くと、かなり広いマンションに住み、家賃も留学にかかる費用も、日本での生活費も全て「国」から支給されているのだとか。

何でも、国で認められた優秀な留学生だったのです!飲み過ぎてゲ○吐くヤツが、まさかそんな凄い人だとは思わず、その話を聞いた後からは、どことなく接客が丁寧になっていきました(笑)

それから数ヵ月後、サーレは来なくなりました。「学校が忙しいのか、それとも引越しでもしたのかねぇ?」とみんなで話していましたが、例のサーレと仲良しの先輩が、真実を話してくれました。

どうやらビザが切れたのにそのままずっと日本に住み続けて、不法居住がバレてサウジに強制送還された、との事でした!意外な結末でびっくりしましたが、法を犯しちゃいけません。残念でしたが、サーレはきっと一生忘れない外国人でしょう。