文化の違い、「トイレを借りる」という言葉の必要性って?

クスッ、ほっこり、外国人あるある話

文化の違い、「トイレを借りる」という言葉の必要性って?

日本語を話さないカナディアンフレンド

30代なかばで会社事務をしていたころに、英会話の勉強を始めました。そして、その勉強を通じて、20代のカナダ人女性と知り合いになったのです。当時、彼女はALT(外国語指導助手)として市内の小中学校で英語を教えていました。

性格は明るく、学生たちにも大変人気がありました。日本語を全く話せなくても臆することなく毎週日本のどこかにでかけていく行動力のある女性です。雑誌などで変わった温泉を見つけてきては、すぐに旅に出るという生活を送っていました。

会話はスムーズではないものの、お互いの家を行き来するほど、私たちは親しくなりました。文化や言葉の違いは数え切れないものの、「違う」という認識がお互いにしっかりしているせいか、それほど困った経験はありません。

うまく話せないなりに、お互い自分たちの文化について説明しあいながら過ごしていました。私は英語があまり話せず、彼女は日本語があまりは話せない、という状態です。
必要があれば絵を描いたりジェスチャーを使ったりしながらの日々でした。

「トイレ借ります」

しかし、あるとき、彼女の家に遊びに行ってトイレを借りたときのことです。
「トイレ借ります」
何気なく日本語で言った私に、彼女が英語での説明を求めました。

私の説明を一通り聞くと、彼女は、こう言ったのです。
「トイレに行くのに断りを入れる必要はないと思う。それに、なぜ『借りる』なのか。『使う』ではないのか」

それまでも、「いってきます」「おじゃまします」など、さまざまな言葉に対して質問されていました。そして、それまでの質問については、「言う習慣だから」といった説明で何とかなっていたのです。

ところがどういうわけかトイレの件については強い興味を持ったようで、
「外国人が日本人の家に行ったときも言うべきなのか」
「借りたトイレを返すときも、断りを入れるのか」
「そもそも、トイレに行くのに人に言う必要性があるのか」
など、質問攻めにあってしまいました。

「トイレを借りる」という言葉は、私にとっては、あまりに日常的すぎる言葉でした。
どうしてそういう表現をするのか、なぜ使うではなく「借りる」なのか、など一度も考えたことはありません。

そのとき初めて「日常的な言葉の意味を説明するって難しい」と強く感じました。
結局その日、私はうまく説明することができずに終わってしまいました。

それ以降、「トイレ借ります」は彼女のお気に入りの言葉となりました。
必要性は分からない、理解できない、でも日本では言うらしい、と判断したようです。
私の家に遊びに来た際には、よく「トイレ借ります」と行ってトイレに向かっていました。

借りる、だけじゃない!

彼女の話によると、
・いってきます
・いただきます
・トイレ借ります
・おじゃまします
・おじゃましました
などは、言葉として、意味や使用する必要性があまりピンとこなかったようです。

国によって違いはあるかもしれませんが、少なくとも彼女が育った環境では、使用されることのない言葉だったようです。しかしピンとこないながらも「日本人が言っているタイミング」を把握すると、積極的にそれらの言葉を使って楽しんでいました。

あれから数年が経ち、彼女はカナダに帰国しましたが、当時より頻度は減ったものの、今も交流は続いています。彼女は、現在は教師ではなく、別な仕事をしていますが、未だに日本が好きなようです。

結婚して子供を生んだこともあり、今は日本に来ることができませんが、
「子供たちが大きくなったら、今度は家族で日本を訪れたい」という話です。

文化の違いは大きく、ときどき、お互いを理解できないと感じることはあります。
しかしお互いの文化を認め合いつつ、一生この楽しい関係を続けていけたらいいなと感じています。